今回、私たちが取材へ伺ったのは、緑いっぱいの山々に囲まれ、日本海もすぐ目の前という自然豊かな京都府京丹後市。

ここに、新しいスタイルで若手農家を応援し、丹後の魅力を各地に向けて発信する「田園紳士」という会社があります。

代表は「京丹後が持つ地域資源に魅了された」という和歌山出身の森下裕之さん。

森下さんは、2013年久美浜町の地域活性化を目指す「久美浜まるごとプロデューサー協議会」が農林水産省の交付金を活用して、農産物のブランド化と販路開拓事業を実施した際に、中心となった人。  

農家さんの畑へ出向き、直接コミュニケーションを取る森下さん

農家さんの畑へ出向き、直接コミュニケーションを取る森下さん

農家さんの畑へ出向き、直接コミュニケーションを取る森下さん 事業は今年3月に終了したものの、それまでの活動を継続して運営するために、新たに会社を設立。

当初は8名の農家でスタートした活動でしたが、現在は若手農家を中心に約30名が森下さんの思いに賛同しており、定期的に集まって京丹後市の地域活性化のための活動に取り組んでいます。

丹後の持つ豊かな資源を生かした田園紳士の活動

この何とも粋な会社名「田園紳士」は、古い久美浜町誌を見ていて出合った「田舎紳士論」という言葉に由来すると言います。

これは明治時代の頃、徳富蘇峰が唱えた思想で、町誌には、田舎紳士論に賛同した久美浜の若者が仲間とともに積極的に村づくりに乗り出したとあったそうで、「今、自分がやっているのと同じような活動を、明治時代にもやっていたのか」と感銘を受けたそう。

現在、森下さんが日々取り組んでいることは、主に京丹後産の野菜や穀物、果物、加工食品などの卸先を開拓し、どんどん増やしていくということ。

京都市内はもちろん、東京や大阪、遠くは沖縄、海外はシンガポールにまで商談に行くこともあるといいます。

京丹後で栽培される野菜

京丹後で栽培される野菜

 

 

森下さん:

「今はとにかく安定した販路を増やすことを考えています。

販路が増えることで農家さんも安心して野菜やお米作りに取り組めるようになれますし、せっかく作っても売れない、売れても安いでは、農家さんのモノ作りに対するモチベーションも上がりません。

販路を広げないことには、農業に関わる人も減っていくばかりになってしまいます」

 

収穫したての京都府京丹後産きゅうり

収穫したての京都府京丹後産きゅうり

 

 

森下さん:

「今、取り扱いのある野菜や果物は全部で30品目ほど。

有機栽培に取り組んでいるのは全体の1割で、全体の約半分の農家さんは減農薬の野菜作りをしています。

今後は質のいい、より良い野菜を作るために、農家さんたちを集めた勉強会も開いていきたいと思っています」

 

 

今年特に人気だったのは、京丹後市網野町で栽培される「琴引メロン」。

まだ世間一般にはあまり知られていない品種だそおうですが、これからどんどんその魅力を伝えていきたいと考えておられます。

 

 

森下さん:

「メロンと言えば、北海道の夕張メロンなどが有名ですが、琴引メロンも負けないくらい甘くておいしいんです。

高級メロンとして売り出し中で、特にギフトとして人気を博し、今年は伊勢丹や高島屋などの百貨店に置いてもらっていました。

京丹後市で栽培されているのは主に野菜というイメージがあるかもしれませんが、琴引メロンだけではなく、いろいろな種類の果物が栽培されていることを、もっと大勢の人に知ってもらいたいとも思います」  

 

 

地域の農家さんたちと一緒になって京丹後市を売り込む

販路を広げる一方で、森下さんは安定して野菜を出荷してくれる農家さんを増やすことも考えなければいけません。

そんな森下さんに今年7月、新たな出会いがありました。

それが、ワタミグループが展開する有機農業に特化した「ワタミファーム」です。

ワタミグループが展開する有機農業に特化した「ワタミファーム」

ワタミファームの畑に出向き、農家さんに現状について話を聞く森下さん。

 

「ワタミファーム」は京丹後市に広大な農場を持ちながら、人材不足により稼働していない畑があるという課題を抱えています。

ですが、京丹後産の野菜をベースに地域の魅力を発信していきたい森下さんにとっては、「ワタミファーム」と連携を図り、畑をうまく稼働させることで将来的には「田園紳士」で扱える商品が増えるという期待が持てます。

森下さんにとってもワタミファームにとっても、大きな可能性を秘めた出会いでした。

ワタミファームのビニールハウスを見学する森下さん

森下さん:

「ワタミファームさんには、これまで培ってきた、安心安全な野菜を育てるための有機農業に関するノウハウもありますし、広い敷地はもちろん、野菜を育てるのに必要な道具もすべて揃っています。

今、農業について学びたいという人の研修先を探していることもあって、ワタミファームさんと一緒に研修生を受けいれて、これから就農したい人のための人材育成といった取り組みもできるのかなと思いました」

 

農道を歩きながら打ち合わせをする三人

農道を歩きながら打ち合わせをする三人

安定して野菜を供給するために必要不可欠なのが、野菜を作っていく人。高齢となり廃業する農家さんも多い中、森下さんは新しく就農したいという応援する活動にも取り組んでいきたいと考えています。

就農したいけれど、どうしたらいいか分からないという人から相談を受けることもあり、農家さんを増やしていくという仕組みづくりも今後の課題となりそうです。

同年代の農家さんと切磋琢磨しながら

WinWinの関係を築く

松宮さんのきゅうりのハウスを視察

松宮さんのきゅうりのハウスを視察

森下さん:

「すごくこだわって野菜作りをしている方と出会って、勉強させてもらうこともたくさんあります。自分と同じ和歌山出身の松宮さんもその一人です」

と、森下さんが連れて行ってくれたのが「まつみやファーム」。

代表を務めるのは、結婚を機に京丹後に移り住んだという松宮靖さん。

元々会社員をしていたという松宮さんが、農業に携わるようになったきっかけはなんだったのでしょう?

 

松宮さん:

「もともと嫁のお父さんは農家で、こっちに来たときから野菜やご飯がおいしいなぁって思っていたんです。それでいつしか、この京丹後で採れた美味しいものを他の人にも味わってもらいたいなぁと思うようになりました」

 

松宮さんが農業を始めたのは6年前。現在、松宮さんは作った野菜をJAに卸すだけではなく、松宮さんだからこそのスタイルで積極的に販売ルートの開拓にも取り組んでいます。

 

松宮さん:

「奥さんの実家が農家だったこともあって支援してもらえる新規就農とはならず最初は苦労しました。

でも、まずは土地を借りて、JAの方や近所の農家さんに教えてもらうなどして、これまで何とかやってきています(笑)。

最初はJAに野菜を卸すなどしていましたが、今では市場の人と直接やり取りをすることの方がほとんどですね。

野菜は作ったけど、いざどうやって、どこへ売るのか?ということを考えると、今の時代、自ら積極的にアピールしないと売れません。

なので、うちでは旬の野菜を詰めこんだ“野菜ボックス”を作ったり、百貨店へ売り込みに行くなどしています」

 

ブロッコリーが芽を出した畑

野菜の生産量を増やすために、新たな土地での野菜作りにも取り組んでいる松宮さん。

ブロッコリーが芽を出した畑。

ブロッコリーが芽を出した畑。


ブロッコリーが芽を出した畑。その2

ブロッコリーが芽を出した畑。その2

すでに開墾された土地には、ブロッコリーの小さな芽が出ていました。

まつみやファームでは、ほぼ特栽レベル(その農産物が生産された地域の慣行レベルに比べ、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下、で栽培された農産物)で野菜を栽培しており、肥料は収穫前に必要な分だけ補うといいます。

そのほかにも、例えば枝豆は収穫後に一度冷蔵庫で冷やして旨みを閉じ込めたり、スイートコーンを収穫する際は収穫のタイミングを見極め、一番糖度が高くなる、早朝というより真夜中に近い時間帯に収穫をするなど、一番おいしいタイミングで野菜を収穫、消費者に届けられるようにと工夫を凝らしています。

 

 

松宮さんが今後開拓する予定の土地も見せてもらいました

松宮さんが今後開拓する予定の土地

松宮さんが今後開拓する予定の土地

 

松宮さん:

「京丹後というエリアは海に近いので、野菜はミネラルを含んだ海風を浴びていてカルシウムが豊富なんです。

おいしいだけじゃない、京丹後産の野菜の魅力をもっと多くの人に伝えていきたいですね。

いい野菜を届けようと思うと、やりたいことがいろいろある。さらに販売方法も自分で考えるとなると、時間も人手もとられて本当に膨大な作業量となってしまいます。

なので、販路を見つけてきてくれる森下君のような人に出会えてよかったなと(笑)得意なものは得意な人に任せた方がいいですよね」

京丹後の生産者:松宮さん(左)と森下さん(右)

京丹後の生産者:松宮さんと森下さん

 

森下さん:

「野菜を流通させる人と、生産する人がいい関係を築けたらベストですよね。私たちに販路のことは任せていただいて、松宮さんにはおいしい野菜作りに集中して頂けることが一番だと思います。

農家さんがどんなにおいしい野菜を作っていても、情報発信がうまくできなければ、そのおいしさは伝わりません。

情報発信が苦手な農家さんもいらっしゃるので、月に一度講師の方に来てもらい、プレゼンの仕方や話し方を、経営計画の立て方など教えてもらうといったこともしています。

田園紳士で、少しでもそういった魅力が伝わるお手伝いができればいいなと思います」

 

森下さんはこれから先、野菜の販路拡大をするだけではない、京丹後への観光客を増やし、ファンを増やし、トータルで地域活性化できる人材へと成長したいと言います。

ブランディングや情報化がものをいう現代において、都会と地方、人と仕事を繋ぐ森下さんのような仕事をする人材は、今後どんどん必要とされるのではないかと思いました。  

 

もしこの記事を読んで、京丹後や久美浜、農業に興味を持ったという人は行動を起こしてみませんか。受け入れてくれる環境は整っていますよ。

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江角悠子
ライター小春 京都在住ライター/「京都 すてきな雑貨屋さん」「地球の歩き方 京都 開運さんぽ道」など、京都関連の書籍、雑誌、広告でも活動中。妙心寺派の小冊子「花園」で育児をテーマにエッセイ連載。フリーペーパー「ことり会だより」副編集長。7歳男児と2歳女児の母。旅した国は15カ国。夢は世界一周。 お仕事のご依頼はこちらから writer.ezumi@gmail.com