始めに

毎日口にしている食材が、どんな土地でどんな風に育てられ、自分たちの手元に届いているのか。

そんなことに思いを馳せることもなく日々の食事をしていた私が、8年前から突如、意識せざるを得ない状況になったのは、生まれてきた息子が牛乳・卵アレルギーだったため。

息子には牛乳と卵の含まれない離乳食を用意、加えて母乳で育てていたので、私自身も牛乳と卵を断つことになり、そこから次第に食材に興味を持つようになりました。

またライターという仕事柄、いろいろな作り手さんに直接お話を伺う機会も多く、手間もお金もかかるけれど、利益だけではない、自分の子どもにも食べさせられる本当にいいものを作りたいと取り組んでいる人たちにたくさん出会ってきました。

私のライターとしての使命は、書くことを通してこの素晴らしい作り手さんたちの取り組みを、もっと大勢の人たちに知ってもらうことなんじゃないかと考え始めていたところへ、京都ベジラボの伊藤社長から、農家さんを取材する仕事をしないかと声を掛けられたのでした。

そんなわけで今回から、わたくし江角が生産者さんのところへ直接伺い、お米や野菜がどんな風に育てられ、生産者さんがどんな思いで農業に取り組んでいるのかを取材、ブログでお伝えしていきたいと思います。

 

——- 今回登場いただくのは、料琵琶湖の北西岸に位置する自然豊かな地域、滋賀県高島市で有機米づくりに取り組んでいる「うねの農園」の代表・釆野哲さん。

 

2006年、旧高島郡6町村の合併で高島市が誕生したことをきっかけに、それまで個別に農薬・化学肥料を使用せず農業を行ってきた農家7名が集まり、設立されたのが「たかしま有機農法研究会」。

釆野さんはそのメンバーの一人として、除草剤、殺虫剤、殺菌剤等の化学薬品、および化学肥料の一切を使わず、かつ生き物と共存できる道を模索しながら有機米づくりに取り組んでいます。

試行錯誤の有機米づくり

「たかしま有機農法研究会」の中心メンバーとして活動する釆野哲さん

「たかしま有機農法研究会」の中心メンバーとして活動する釆野哲さん

 

「たかしま有機農法研究会」の中心メンバーとして活動する釆野哲さん

「たかしま有機農法研究会」が設立されるまでは、農家ごとに独自で試行錯誤を繰り返しながら、より良い有機米づくりに取り組んでいたそう。

 

 

釆野さん

「でも1人でより良いお米作りを追求するには限界があるんです。それまで各農家が1年に1回分の経験を積んでいたのが、7軒の農家が集まることで、7年分の経験や情報が共有できるようになりました。

例えば、有機農業の場合、農薬をまかないので雑草などの手入れが必要なのですが、そもそも、丈夫で質のいい苗を植えないと育っている途中で雑草に負けてしまうんです。

でも会が発足されて、いい苗の作り方や雑草についての知識を共有することができるようになったこと、加えて(株)アミタ持続可能経済研究所やNPO法人民間稲作研究所と連携したことで、いろんなアドバイスがもらえてお米作りの技術は向上していきました」

 

お米作りで使われる農薬は、県ごとに基準が異なる

「たかしま生きもの田んぼ」と名付けられた有機米の育つ田んぼ 釆野さんにお話を聞くまで全く知らなかったのですが、お米作りの際に使われる農薬の基準は県ごとに異なるのだそうです。

そして滋賀県は近畿の水がめである琵琶湖を守るため、水田から濁水が流れだしてしまわないよう、全国的に農薬に関する基準が厳しいのだと言います。

お店取材に行くといろいろなレストランで「近江米を使用!」とうたっているのを目にしていましたが、近江米が評価されているのは、そんな背景があったのです。

 

田んぼの中の生き物と一緒に育てる有機米

「たかしま有機農法研究会」のモットーは、農薬を使わないことだけではありません。

田んぼの生きものとも共存しながらお米作りをすることも既定の一つとして設けています。

例えば、無農薬農法の一つとして知られる合鴨農法。

研究会では、この農法も取り入れていないと言います。

 

 

釆野さん

「合鴨農法は、田んぼに放した鴨に雑草や虫を食べてもらうという方法ですが、それは田んぼにいる生きものと共存するという意味で、私たちの思いとはまた違うものです。

田んぼにはヤゴなどの水生昆虫がたくさんいて、それらをエサにしている生きものもたくさん集まってきます。

水生昆虫を除外してしまったら、共存・共生がなりたちません。

そういった意味で、ジャンボタニシやカブトエビによる農法も禁止事項にしています。

高島市にはトキのようなスーパースターとして注目を浴びるような生きものはいませんが、昔は当たり前にいた身近な生きものたちはたくさんいます。

チュウサギやナゴヤダルマガエルなど、今では珍しくなった生きものも、ここ高島生きもの田んぼでは見ることができるんです。

田んぼ脇に、湖と田んぼを自由に行き来できる魚道を設置 昔は、産卵のためにフナやナマズなどの魚は田んぼを利用していたのですが、通り道が分断されできなくなっていました。

そこで自由に魚たちが田んぼにのぼれるように手作りの魚道を設置することもしています。

 

 

 

収穫時、農薬・化学肥料不使用の田んぼに集まるチュウサギ

収穫時、農薬・化学肥料不使用の田んぼに集まるチュウサギ

 

イベント実施や物産展を通して消費者=ファンと繋がる

 

田んぼの中の生き物観察をする小学生

田んぼの中の生き物観察をする小学生

 

 

釆野さん

「地元の小学生たちや都市住民の方と一緒に、田植えや稲刈りなどの体験イベントを開催したり、百貨店などの物産展にも出店するなどして、取り組みやお米について知ってもらう活動にも積極的に取り組んでいます。

実際に、私も現場に立ってお米作りのことをお話しさせてもらうと、興味を持ってもらえることも多いですね」

 

 

そうした地道な活動で少しずつ「たかしま生きもの田んぼ米」の固定ファンが増えているそう。

 

「ありがたいことに、購入してくださるのは口コミのお客様のほとんどなんです。

消費者の方と直接つながってやりとりできるということは、農業をする上でのやりがいにもなっていますね。」

 

有機米に出会う前は、農作業に携わっていても、田んぼにいる生きものが見えていなかったと釆野さんは話します。

 

「農薬を使うことが当たり前できた年配の農家さんの中には、生きものに関心がない人も多いと思うんです。

みんなあまりに簡単に農薬を使ってしまう。

例えば、カメムシが発生する時期が来たら、一斉に農薬を撒きましょうという案内が届くんです。

一軒でも農薬を撒かない田んぼがあれば、そこからカメムシが隣りの田んぼに移動するなどの問題があるから、みんなでせーので撒きましょうという具合に。

その農薬を使うことが、生態系にどんな影響を及ぼすのか、その辺りにもっと目を向けてみて欲しいと思います」

 

有機米を育てるにはとにかく手間がかかると言います。

雑草が生え、天候に左右され、年によっては供給が足りなくて卸業者に何度も謝りに行ったことも。

それでも「消費者」「農家」「生きもの」の三者が安心できる有機米づくりをこれからも続けていきたいと話します。

手間暇かかっている分、有機米の値段は普通のお米よりいい値段が付きます。

それでも釆野さんの話を聞いた後は、こんな思いで作っている農家さんからお米が買いたいなぁという気持ちになりました。

そして、いただいた有機米を翌朝炊いて食べてみたら…もっちりと粘りがあって、噛むとほのかに甘く、何とも言えない美味しさ。

おにぎりにして食べたら、冷めても美味しい。この美味しさ、釆野さんの思い、もっともっと大勢の人に知ってもらえたらいいなぁと思います。

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江角悠子
ライター小春 京都在住ライター/「京都 すてきな雑貨屋さん」「地球の歩き方 京都 開運さんぽ道」など、京都関連の書籍、雑誌、広告でも活動中。妙心寺派の小冊子「花園」で育児をテーマにエッセイ連載。フリーペーパー「ことり会だより」副編集長。7歳男児と2歳女児の母。旅した国は15カ国。夢は世界一周。 お仕事のご依頼はこちらから writer.ezumi@gmail.com